データの専門家もデータ活用人材も目指せる。データサイエンス×17の分野で学ぶ桜美林大リベラルアーツ学群

「データサイエンス力の高い人材が不足している」。

DX推進で企業のデータ活用への関心が一気に高まり、「AI戦略2019」をはじめとする国家戦略でもデータ人材の必要性が叫ばれている今、データサイエンスを学ぶ手段も増えている。

企業が提供する講座、行政による無料のオンデマンド講座、MOOC……と多くの選択肢がある中で、あえて「高等教育機関でデータサイエンスを学ぶ」意義はどこにあるのだろうか。

2017年の滋賀大学を皮切りに、データサイエンスが学べる大学も年々増えている。データサイエンス、と学部や科目名には名にはあるけれど、他の大学とどう違うのか?この大学で身につくものは何か?

データサイエンスを学べる大学・学部を詳しく知る本企画、3回目は、桜美林大学リベラルアーツ学群(以下LA学群)だ。LA学群では、2022年4月からのデータサイエンスプログラム開始に向けて準備を進めている。

今回はリベラルアーツ学群自然領域長を務め、データサイエンスプログラムの設立を手掛けた宮脇 亮介教授に話を聞いた。

宮脇 亮介 教授
1982年早稲田大学卒業、1984年東京学芸大学大学院修了、1996年東京大学大学院理学系研究科より博士(理学)。カリフォルニア州立大学バークレー校文部科学省在外研究員、
福岡教育大学教育学部教授を経て、2007年より桜美林大学リベラルアーツ学群教授。
同学群長補佐、領域長を歴任し、データサイエンスプログラムの立ち上げを手掛ける。専門分野は天文学、科学教育。

>>特集:データサイエンスの学び舎

文理の橋渡しとしてのデータサイエンス。文学×データサイエンスの組み合わせ履修も可能

――2021年4月の入学者からデータサイエンスを専攻できると聞きました。LA学群のデータサイエンスはどういう位置づけになるのでしょうか?

宮脇 LA学群は特定の分野の知識を「覚える」のではなく、学び方を学ぶところです。一般の専門学部・学科に比べたら必修条件が緩く、複数の学問から好きな学問ないし科目を選び取っていく、いわばカフェテリア方式です。

入学時に人文・社会・自然領域の3領域から1つを選びます。そして2年次の秋に、統合型プログラムを追加した4つの領域から、主専攻(メジャー)、副専攻(マイナー)を1つずつ選び、ある程度方向性を定めて履修します。

統合型プログラムは2年次から履修でき、文理の橋渡しとも言える科目が多くあります。市民が科学を理解するためのパブリック・コミュニケーションの方法を学ぶ科学コミュニケーションや、宇宙・生命・人間の本質や存在の意味を、138億年の地球宇宙史から考察するビッグヒストリーなど。データサイエンスもこの統合型プログラムに含まれます。

最初の1年は自然領域を選んで、数学や情報科学を履修してからデータサイエンスを勉強しても良いですし、人文・社会領域を選んでからメジャーをデータサイエンスにして、マイナーを文学や経済学、心理学などにしてもいい。メジャーとマイナーの領域が異なれば、好きな分野を組み合わせられます。

1学年の定員は950人ですが、極端な話、950人いたら950通りの学びができる。30のプログラムから選ぶ、メジャーとマイナーの組み合わせが多数生まれるわけです。

統合型プログラム、専門型プログラム(人文、社会、自然)の30のプログラムからメジャー(主専攻)・マイナー(副専攻)を選ぶ

――文系学部の、データサイエンスとは関わりが遠そうな分野とも一緒に専攻できるんですね。

宮脇 文系の学問でもデータサイエンスの使いどころはあると思います。たとえば文学部でテキストマイニングなどを使って、有名な作家がどういう言葉を好むのかを分析したり、機械学習を使って過去の卒業論文からうまく情報を抽出したりとかね。心理学や経済学のように親和性が高い学問もありますし。

そもそもデータサイエンスは手法です。統計数理研究所でも、理系・文系問わずさまざまな分野の研究がされています。統計学や数学イコール、データサイエンスとは限りません。

データの専門家と「データを見る資質を持つ人」、どっちも目指せる

――「データサイエンスを究めたい」という人向けの履修モデルはありますか?

宮脇 データサイエンスを究めていくとなると、やはり数学ベースの科目は履修していったほうがいいと思います。

専門的に学ぶ学部学科と比べたら、少し不十分なところもあるかもしれませんが、遜色なく学べると思いますよ。自然領域では情報科学のほかにも微積分や線形代数学、統計学や確率統計学なども用意していますので、深く学びたい学生さんにも対応できます。

データサイエンスプログラムに含まれる科目はデータベース、プログラミング、機械学習、確率・統計、数理統計学をはじめ、ミクロ経済学や社会統計学、意思決定の科学という科目もあります。

――「意思決定の科学」、ユニークな科目名ですね。どんなことを学べるのでしょう。

宮脇 マスメディアの世論調査などを題材に、意思決定時の行動を分析する科目です。

あるテーマに賛成・反対する人たちはなぜその選択肢を選ぶのか。またその選択ははっきりした意志のもとなのか、単なる偶然なのか?といった、意思決定者の動きを心理学的な面などから分析します。

――データや数値を使った行動分析、興味深いです。
リベラルアーツでいろいろな分野の学びを深めていくうちに志向が変わることもありそうですね。メジャーにするほどでもなかったな、とか「こういう分野もおもしろそうだな」って興味が出たりして。

宮脇 学生の持っているイメージと、履修後で学問のイメージが変わる分野ってありますよね。

私の専門は天文学で、「天文はロマンがある、おもしろそうだ」といって門を叩く人もいますが、実際は物理学の1分野なので、ガリガリに勉強すると計算だらけです。食いついてくる学生も確かにいるのですが、悲鳴を上げる人が多い分野でもある。

入学前に思い描いていたことと実際に4年間で学ぶことは違って、思い通りにならないことも多いものです。それなのに、学部を決めたら履修やコースも決まって、最後は卒業研究や卒業論文をゴールにして、ちょっと深めた?という程度で卒業されると思うんですよ。学部の実態や「中身をちょっと覗く」ことがなかなかできません。

リベラルアーツは、学部教育では幅広く興味を持って勉強して、学び方を身に着けて、大学院で本格的に研究を進めるというスタイルです。1人として同じ学びをせず、個々人の興味や志向にそった学びが提供されます。

旧来型の○学部○学科、という形式だと、教える側もどうしても学部・学科名を意識したカリキュラムを考えてしまいます。そうすると必修科目ばかりが多くて、学生が学ぶ内容も似通って、均一的になってしまう。

本校のデータサイエンスプログラムでも、データの専門家を目指すだけでなく「データを見る資質がある人材」にはなれるんじゃないでしょうか。

就職活動では学部名よりも「何ができるか」を見られますし、一般市民として生活していくうえでも、データサイエンスを中心に学んでいけば、色々な判断をするときに役に立ちます。テレビに出てくるデータの処理を見て「おかしいぞ」と疑問を持てるから、ただ流されません。

そういう批判的視点を持つ人材を養成するのが、LA学群のひとつの使命だと思います。特定の職業を意識するより、人間形成を優先するのがリベラルアーツです。

私は文系です、という人こそ飛び込んできてほしい

宮脇 学生のバリエーションの広さも、リベラルアーツならではのおもしろいところです。

専門の学部だと、似たような特性の人が集まりがちです。たとえば私がいる理系はオタクばかり(笑)でもリベラルアーツは、理系文系問わずいろんな志向・特性の人がいます。


広々としたキャンパスに、4000人近いリベラルアーツ群の学生が集う

大学生の多感な時期に色々なタイプの人と出会って交流すると刺激を受けるでしょうし、のちに得がたい経験になるのではないでしょうか。

私の研究室も天文学が専門ですが、いろいろなタイプの学生が集まってきます。主専攻に英文学を学んでいた学生が、研究者の半生が書かれた洋書を読み解いたり、歴史が主専攻の学生が科学哲学や科学史を紐解いたり。天文学にもいろいろな切り口や見方があるということを学生自身が学んでいき、成長していくのが分かります。

理系は研究室や先生の都合で卒業研究のテーマが決まることが多いですが、研究室のテーマと学生自身が持っているテーマをすり合わせながらどう着地させるか、を一緒に考えながらやれるということはおもしろいところですね。

――これから始まるデータサイエンスプログラムでも、そうした新しい「学び」が起こりそうですね。

宮脇 私は「自分は文系です」という学生にこそ、データサイエンスプログラムに来てほしいなと思っています。

私は文系です、という方のほとんどは、数学や計算ができないから「文系です」と言っているにすぎません。悪く言えば、高校までの数学の先生が悪かった(笑)

野球やサッカーでいう筋トレと同じように、数学も基礎体力がないと楽しめません。少し数学の勉強は必要だけど、ちょっとでもデータの見方や扱い方に興味がある、という学生が来て学んでくださると学生の学びが進化するでしょう。

――それこそ旧来の文系学部に入ってしまうと、自分の専攻テーマとデータサイエンスを組み合わせて研究する、という機会もそれほど多くないでしょうしね。

「データサイエンスはかくあるべき」という型にはまらない学びを提供したい

――最後に、データサイエンスプログラムでの今後の展望を教えてください。

宮脇 LA学群でも、データサイエンスは理系文系を融合したひとつの柱になっていくと思います。データサイエンスはいろいろな学問や分野に関連していく学問です。

データサイエンスを学べる大学は増えていますが、LA学群ではデータサイエンスとはこういうものだ、という型にはまらず、名ばかりのデータサイエンスにならないよう、いろいろな方に学んでほしいですね。

人の感情から宇宙現象まで、多くのものがデータとして扱える中、データサイエンスプログラムとしても、学生の見聞が広がるような学びにしたいと思います。

実社会でも活かせる、データサイエンス的視点

今回、初めて「データサイエンス」の名が入っていない学群を取り上げた。データサイエンス学部・学科では1年次から専門科目が入り、2年次以降はより深く学んでいくが、同校のデータサイエンスプログラムは2年次から始まる。組み合わせるもう1つの専攻も17のプログラムから選べ、自分の関心・興味に近い分野を究めるのにデータサイエンスの知見を活かす、という学び方ができるのはユニークな点だ。

実社会でもいろいろな業種・業態でデータ活用が進んでいるように、手法としてのデータサイエンスの活かし方を体験できるといえそうだ。宮脇教授も「文理や学部の枠にとらわれず、いろいろなタイプの人と出会い切磋琢磨しあえる」と言っていたが、ここでは"データサイエンス学部"とは違った種類の化学変化が起きそうな予感がする。

本企画は、今後もデータサイエンスを学べる大学・学部を紹介していく。

桜美林大学 リベラルアーツ学群 概要

開設:2007年4月
定員:950人(募集定員数)
所属教員数:91人
公式ページ:リベラルアーツ学群 | 桜美林大学