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一般社団法人リテールAI研究会は2021年1月末から、「スマートショッピングカートデータを用いた分析コンペ」を開催した。この分析コンペは、新たな併売パターンの発見や、個人ごとの購買予測モデル構築、また最終的に構築したレコメンドモデルをカート実機に展開することを目指した内容だった。
トライアル社のスマートショッピングカートとは、「トライアル」の店舗で利用できる、タブレットとバーコードリーダーを搭載したセルフレジ機能付きの買い物カートである。トライアル専用のプリペイドカードをスキャンすることでカートを使用できるようになり、利用客は商品のバーコードをスキャンしながら買い物が可能。買い物中に売場で商品スキャンを終えているため、決済ゲートを通過するだけで会計が完了し、レジ待ちが無くなることが最大の特徴だ。
※SSC=スマートショッピングカートの略
本稿では、トライアルグループの技術開発を主導する株式会社Retail AI 代表取締役社長・永田洋幸氏と、リテールAI研究会の今村修一郎氏に、小売り業界でのDXについて話しを聞いた。
株式会社Retail AI 永田氏
リテールAI研究会 今村氏
小売り業界でのDXは「暗中模索」の段階
まず、現状の小売り業界でのDX(デジタルトランスフォーメーション)の実情について話してくれた。
「さまざまな業界でDXについて問われていますが、小売り業界においては、『暗中模索』段階にある企業が多い印象です。
人々の生活様式や社会構造が大きく変化するニューノーマル時代に向け、『DXの必要性』の理解は小売り業界の中でも進んでいるはずです。しかし、DX推進のために『何をすべきか』『何から手をつけるべきか』という段階でのつまずきも多くあるのではないかと推測します」
「永田さんがおっしゃるように、小売り業界が抱える課題は、やり方が何もわからないことです。
ただ、小売り業界自体の規模ってものすごく大きいんですよね。それこそ、自動運転など、最先端技術が活発に採用されている自動車業界に比べても10倍程度大きいです。しかも、小売り業界のほうが私たちの生活に直結していることもあるので、関わる人が多いんですよ。
それなのに、DXやデジタル化が進まない理由のひとつは、企業やメーカーの数が非常に多く、バラけてしまっているからだと思うんですね。それであれば、1社ごとに個別に推進していくのではなく、みんなで進めていったほうがいいのでは、と考えて立ち上がったのが我々リテールAI研究会です。
実際、今回のコンペティションは、非常に多くのメーカーや卸業者、広告代理店などの多岐にわたる業界の人に興味をもってもらえました。しかも、数多くのデータサイエンティストの方にコンペティションに参加いただけたこともあり、小売り業界におけるDXやデジタル化を推進する一歩を踏み出せたのかと思っています」
では、小売り業界全体でデータ活用が盛んになると、どのような影響を与えられると考えているのだろうか。
「端的に言えば、買い物の定義を変えるきっかけになると思っています。具体的には先ほど(関連記事)お話したとおりですが、買い物客には決済などの利便性を提供でき、店舗側にはより良い売り場づくりや運営環境の実現を可能にするモノだと考えています」
「私も同じ意見で、すべてを過去にするほど大きく変わる可能性を秘めていると思っています。
良い買い物体験ができたかどうかって、利用客が決めることですよね。つまりは、来店する頻度などで判断できるわけです。トライアルさんではすでに来店頻度が向上したと説明されています。飛躍的なお話かもしれませんが、『ほかのお店よりもトライアルで買い物をする』と思わせられているのではないでしょうか。
利用客に選ばれるお店と、そうではないお店は、売り上げが明確に離れることになります。店舗もメーカーも卸も、消費者に買ってもらわないと何も利益になりません。そういう観点でも、トライアルさんでのスマートショッピングカートをきっかけにした取り組みは、本当に大きな一歩だと思っています。大きな話をすれば、今後企業が20年、30年続くかどうかを決めかねない要素にすらなりえると思います」
現状は「導入した・しない」の次元でしか語られていない
続けて、今村氏は「デジタル化は今後の小売り業界では絶対に必要だ」という。
「今さら言うほどのことではないですが、今後の企業の成長戦略を考えると、データ活用などをはじめとするデジタル化は絶対に必要です。ただ、なぜこれを改めて言ったのかというと、今回のスマートショッピングカートをはじめとする製品は、現状では『導入した』『導入しなかった』というレベルの話しかないからです。
私たちとしては、導入したあとに、たとえば『どういうアルゴリズムを使っているか』『消費者に対して何をもたらせるのか』といった次元で話をしてほしいのです。それこそ、今回の分析コンペのように、データを使ってどうするのかといった部分で企業同士が競争していく世の中になれば、小売り業界も大きく変わると思っています」
永田氏も「まずは使ってみてほしい」と話す。
「DXなどが推進されるには、効果を実感してもらうことしかありません。
極端な話、スマートショッピングカートを導入いただいたとしても、利用客にとって役立たない、便利ではない、となってしまったら意味がないです。ただ、私たちのレジカートの利用率が40%を超えているのは、利用客のみなさまにとって便利だからなのではないでしょうか。
高速道路での支払いはETC、電車やバスに乗るときは交通系ICカードといったように、利用する方々が便利なソリューションを知ってしまえば、急速な普及が可能だと考えています。
小売り業界のDXを前進させるのは、容易なことではありません。それでも、まずは使ってみることで、新たな一歩を踏み出せるのは間違いないと思っています」
そして今村氏はスマートショッピングカートについて次のように話した。
「スーパーマーケットでの買い物って、商品は100円程度のモノがほとんどで、単価は低いです。ただ、この決済が行なわれている数ってものすごく多いんですよね。しかも買い物は、生活していくうえで必須行動です。
ビジネスチャンスがあると言えば変ですが、ある意味で多くの人の“生活”に介入し、影響を与えていくのが小売り業界でのデータ活用です。それこそ、スマートショッピングカートでのレコメンドモデルは、カートに商品を入れたその場で提示する仕様なので、分析手法などによって効果も大きく変わります。
つまり、スマートショッピングカートのようなデータ活用などを活性化させるモノが普及すると、小売り業界内でもデータサイエンティストなどによるデータ分析の競争のきっかけを生み出せそうですよね」
この今村氏の話を聞き、永田氏は「今回のコンペティションで出たアイデアを、どのように実ビジネスにつなげていくかが問われている」といった。
「今回のコンペティションでは、本当に良いアイデアが数多く寄せられました。これらのアイデアを実際の買い物体験向上に繋げるために、どのようにスマートショッピングカートに実装し、現場に投入するか?というのが、私たちが取り組むべき課題です。Retail AI社の強みは『現場でのオペレーションに精通している』点です。小売りの現場でPoC(概念実証)を繰り返すことで、アイデアを形にしていきます。今回のコンペティションでは、データサイエンティストの方々から激励をいただいたようにも感じています」
AIなどの技術が浸透すれば、買い物の定義自体も変わる
最後に、永田氏と今村氏に「AIをはじめとする技術が小売り業界に浸透しきったらどうなるのか」と質問を投げかけた。
「リテールAI研究会が提唱した『リテールAIレベル5』という区分があります。『自動運転レベル5』のように、人の関与の割合が100%の状態をレベル0、自動化・AI置き換えの割合が100%の状態をレベル5とするものです。私たちは現時点でリテールの完全自動化を目指している訳ではありませんが、機械ができることは機械にさせ、人がすべきことは人がするという効率化は着実に進めています。
現状だと、スマートショッピングカートによって有人レジを少しずつ置き換えようとする段階です。次のステップは、レジカートが取得したデータやAIカメラを使い、品出しや発注なども自動化できればと思っています。ただ、ここまでは、小売り業界での『BtoBtoC』のうち『BtoC』だと思っているんです。
小売り業界での『BtoBtoC』において、メーカーとの商談や、物流などで人が顔を合わせて話すような『BtoB』の場面は多くあります。これらまでを無人化できてこそ、本当の無人店舗であると言えるでしょう。実現すれば、商品を更に安価に設定し、お客様の生活をより豊かにすることができます。
これはもちろん夢物語のようなお話ですが、小売り業界に携わる人なら思い描いたことがある人も多いのではないでしょうか。実際に未来がどうなるかはわかりませんが、AIなどの技術が小売り業界にも深く浸透することで、従来の買い物体験を変えられますし、買い物の定義自体も変わると思っています」
「技術が浸透するのは、利用する人たちが選ぶことです。オンラインでの買い物が流行したのは、『店舗に行く必要がなくて楽』という側面が大きいと思うんです。消費者としては便利で楽なほうを選ぶのは当然です。
話は逸れますが、買い物は思っている以上にストレスが多いと気づきました。何を買えばいいのか決める必要がありますし、そもそも販売価格が安いのか高いのかもわかりません。もっと言えば、自分にとって本当に必要なものがどれなのか、わからないじゃないですか。
ただ、このような考えるべき要素が多いことは、すごく良いことでもあると思うんです。何を買うべきか迷う人に対して商品をオススメしてあげて、その商品にハマったら、そのお客様はきっとそのお店を好きになってくれるはずです。それがスーパーマーケットをはじめ小売り業界のような生活に直結する部分で起きると、大勢の人に恩恵を与えられるのだと思っています。
そういう意味でも、AIなどの技術が浸透することで、買い物自体の定義を大きく変わると思います。そして、今回のコンペが盛り上がったことを踏まえると、今回のようなコンペは小売り業界の今後の歴史を変える一歩だったことに間違いないでしょう」
レジカート分析コンペの裏側に迫る全3回の短期集中連載
一般社団法人リテールAI研究会は2021年1月末から開催した「スマートショッピングカートデータを用いた分析コンペ」の裏側に迫るため、Ledge.aiでは全3回の記事で本コンペのキーパーソンにインタビュー取材を実施しているので合わせて読んでほしい。
第1回:
カートを変えたら買い物客の来店頻度を13.8%向上させたスーパーマーケット、その理由は?
https://ledge.ai/regi-cart-competition-vol1/
「スマートショッピングカートは、小売り業界に何をもたらしてくれるのか」を中心に、トライアル社のスマートショッピングカートについて、トライアルグループの技術開発を主導する株式会社Retail AI 代表取締役社長・永田氏に話を聞いた。
第2回:
「1週間程度のコンペ期間で1000万円級のモデルが生まれた」レジカート分析コンペの裏側をマイクロソフト、atmaが語る
https://ledge.ai/regi-cart-competition-vol2/
スマートショッピングカートデータを用いた分析コンペを運営したマイクロソフト・樋口氏、atma・山口氏にコンペ全体を振り返ってもらいつつ、本コンペならではの「おもしろさ」や「魅力的だったこと」を話してもらった。
第3回:
小売り業界でのデータ活用は多くの人の「人生」に影響を与える
https://ledge.ai/regi-cart-competition-vol3/
なぜ小売り業界はDXが進まないのか――。この課題に対して、株式会社Retail AI 代表取締役社長・永田氏とリテールAI研究会・今村氏は「暗中模索の状態」だという。